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Oui! Friends..

As you know, "Pianist/Composer/Surgeon"

運・鈍・根  

 外科医になりたての頃、格別にお世話になった恩師:S先生の訃報が昨日届いた。「葬式無用・戒名不用」の遺言を残して亡くなった白洲次郎のことを書いた直後。S先生も同じような自由人で、有名な先生にもかかわらず、故人の意思で公的な告別式は行われなかった。
 20代半ばで父を亡くした僕にとっては親も同然の人で、便りのないのは元気な証拠と信じ込んでいた。それだけに、最終講義の後にきちんとお会いできなかったことが本当に悔やまれる。
 アメリカ留学仕込みの仕事ぶりで、何事においても合理的であったS先生だったけど、意外なほど日本人的な精神を持っていた。その中で、いつも言われていたのは「運・鈍・根」。何かを成し遂げるには、これが必要だと。
 まず「運」。人生の中で必ず幸運にめぐり合うときがある。それは誰にでも訪れるもの。不運を嘆くことなく、そのときを逃すな。じっと待て。そして、今が自分にとって幸運だと思ったら、そこで全力を尽くせ。
 次に「鈍」。愚直であれ。鈍いやつだと思われるくらいでちょうどいい。切れ味のいいやつだと思われたら、必ず疎ましがられる。鈍いやつほど人に愛されるものだから。
 最後に「根」。困難な事態に直面してもあきらめず、根気よくやれ。そんな根性があり、ひとつの目標に向かって愚直に頑張っていれば、必ず「運」が向いてくる。
 そうS先生は僕に語りながら、こう付け加えるのを忘れなかった。
「残念ながら今のお前はどれも持ってない。どれかひとつでも身につけなさい」と。
 S先生の豪快な笑い声が目に浮かぶ。ご冥福をお祈りします。合掌。