遅ればせながら映画化された「ノルウェイの森」を見てきた。興行成績自体はいまいち伸び悩んでいるようで、客席も空席が目立つ。確かに、原作の世界に思い入れがあればあるほど、作品と自分のイメージとのギャップに不安を覚えるだろうし。それに、あの内容を完璧に映像化するのは本当に困難だろうし。
僕もまさにそうで、映画が始まるまでは少々落ち着かない気分だった。でも、いくつかの印象深い出来事が至極自然な感じでスクリーンに映しだされると、まるで懐かしい思い出のアルバムを見ているかのような既視感におそわれる。原作は何回も読んでいるから結末はわかってるんだけど、実際に生身の役者が演じていることで、より現実的で解決困難な問題が眼前につきつけられる。
ストーリー展開や映画のディテールに関しては、ちゃんと見てもらった方がいいと思うんだけど、それとは別にこの場で言いたいことが二つある。ひとつは、トラン・アン・ユンというベトナム系フランス人監督が、1970年代の日本をきちんと描いていること。まるで小津安二郎の作品みたいに、登場人物が何の変哲もない部屋の中にいるだけで美しく感じる。単なる懐古趣味ではなく、日本人が忘れかけていたような世界がそこにある。
もうひとつは、原作のイメージは人によって全く別物なんだなってこと。小説を読むというのはかなり個人的な作業だけど、こうやって多くの人と「ノルウェイの森」を共有できること自体が、これまで味わったことのない不思議な体験だった。
レコードジャケットの形をしたパンフレットデザインは秀逸。そして、ビートルズの主題歌は言うまでもないけど、レディオヘッドのギタリスト:ジョニー・グリーンウッドが担当したサウンドトラックも映画ゆえの表現力を加味している。
個人的には「緑」を演じた新人の水原希子に心を奪われた。やっぱり、原作を読んだときと同じような見方を自分はしているんだなって我ながら苦笑したけど。