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As you know, "Pianist/Composer/Surgeon"

愛と幻想のファシズム

 最近、村上龍の小説「愛と幻想のファシズム」を読み返している。初版は1987年で、日本がバブルと言われる好景気に沸いていた頃。そんな時代に、日本が未曾有の経済危機に見舞われて存亡の危機に瀕し、一人のカリスマ(鈴原トウジ)によって大きく変革していく物語。まだロシアがソ連だった頃に、まさに今の日本を映し出しているようなストーリーが展開される。
 弱肉強食の論理を唱え、ファシズムは最もコストのかからない統治方法だと言い放つ主人公は、魅力的でもあるし反面教師的でもある。逆に言えば民主主義というものは、コストも時間もかかり、物事の意思決定にいくつもの手続きを踏まないといけない。ある意味、面倒なシステムだ。
 今は亡きジャーナリストの筑紫哲也は「多事争論」をよく口にしていた。出典は福沢諭吉の言葉。様々な観点から様々な立場の人が自由に議論する。それが、民主主義社会の基礎となる。
 朝令暮改の宰相。ワザとなのか天然なのかはわからないけど、自身への批判はもちろんのこと、日本が抱える諸問題に対して多くの意見が出てきているのも事実。今日求められるリーダーシップとは、ある一定の方向に皆の意見をうまく集約していくことではなく、様々な立場の意見が出せる環境をつくり、おそらくは消耗するにちがいない話し合いを忍耐強く続けていき、最後の最後に一定の決断を下し、その決定に自ら責任を負う、そういうものではないか。
 懸案事項の処理に迷走している現政権の姿を見て、日本にもようやく真の民主主義が根付きつつあるのではないかと思う。あちらを立てればこちらが立たず。当たり前のことながら、難しい問題を解決するには納得するまで話しあうしかないんだから。