一昨日、ある講演会に行ってきた。外科医になりたての頃、最初の勤務先でお世話になった恩師から連絡があり、「自分の最終講義になるから、是非来なさい」とのこと。数年前に大病を患われ、まさか?と思いながら会場へ駆けつけたものの、以前と変わらないお元気な姿を拝見でき、心配は杞憂に終わった。
恩師(S先生)は、いまや静脈外科の第一人者であり、その筋で知らない人はいない。しかし、アメリカ留学から帰国後、あまりにも先進的かつ独創的な考え方と、周囲から明らかに浮いてしまう風貌もあって(前列右から2番目)、「白い巨頭」と言われた当時の大学病院では風当たりが強かったと聞いている。
新天地を求めてS先生は大学病院を去り、これから自分で道を切り開いていく、そんな時期に僕は出会った。外科医のイロハを教わり、医者として、人間として足らない部分をずいぶん指摘された。
「お前は格好をつけすぎる。もっと馬鹿になれ。そしたら、人はお前に何かを教えてくれるし、協力もしてくれる。」
今、思い出しても耳が痛い言葉。その後、僕自身はS先生とは違う専門領域を選択したが、進取に富んだS先生の教えは、今も自分の中に生きている。
「もういい年齢になりましたから、好きなことをやらしてもらいます。ただ、やるからには徹底的にやります。覚悟してくださいよ。皆さん!(笑)」
人生、スタートはいつからでもいい、ただ、やるからには妥協するな、S先生が最終講義と称して僕に伝えたかったことはこのことなんだと思った。