自慢じゃないけど、子供の頃思いっきり自然の溢れる中で育った割には、動植物にはとんと疎い。花の名前なんか全然知らないし、一度聞いてもすぐに忘れる。たぶん、あまりにも当たり前のものとして自分の中で認識しているんだろう。手を伸ばせばいつでもそこにあるものだったから。
だけど、今となっては昔懐かしい風景など探してもなかなか見当たらない。そういった心象風景がかつてあったことすら忘れているくらい。
毎朝時間に追われて車で駆け抜ける通勤路に、春の野草が咲いていた。小雨の中で黄色い花弁が風に揺れているのを見て、ある懐かしいイメージが浮かんできた。それだけで、何かほっとする。自分にとっての原風景の一部分が、そこにあったのかもしれない。