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Oui! Friends..

As you know, "Pianist/Composer/Surgeon"

Play Bach  

 ジャズとの出会いシリーズ,前回ちょっと脱線したので今回はその続きを書きますね.

 キース・ジャレットの「ケルンコンサート」を聴いてから,こういう演奏がしたいと思った僕は,どこか演奏できる場所はないか?と探し回りました.ただ,いかんせんソロピアノで即興演奏というスタイルを受け入れてくれる店はなかなかなかったんですね.いわゆるジャズのライブハウスは敷居が高いしなあ・・と思ってたところに,大学のキャンパス近くに「Play Bach」(プレイ・バッハ)というお店を見つけました.このお店はいいオーディオセットとアップライトピアノ&ドラムセットが置いてあって一見ジャズ喫茶(最近はなくなりましたね)のようでした.恐らく,ジャック・ルーシェの名盤から店の名前をとったんだと思います.

 週末には,ジャズコンボのライブもやってたので,もしかしていけるかも?と思い,お店のママさんらしき人に「ソロピアノでライブしたいんですけど」とお願いしたら,快く了承してもらったんですね.それで,自分で宣伝ポスターをつくってお店のドアに張ってもらい,毎週金曜日の午後7時から演奏を始めました.ある程度の演奏モチーフは決めていましたが,ほぼ完全な即興演奏を50分やって間に10分休憩をはさみ,また50分演奏するというスタイルでした.

 夏休みと春休みを利用して,北海道とヨーロッパへ長期旅行に行ったとき以外は,基本的に休まず年間50数回のライブを行い,それを大学2年の4月から5年間続けました.最初は何じゃこれ?といった感じでお客さんにも相手にされてませんでしたが,徐々に常連の人も増えてきて,タウン情報にも写真入りで紹介されました.とにかく黙ってピアノを弾き続けて,大きな声で喋るお客が来たときには,大きな音で弾き(笑),それでも音を無視してお客が黙らないときには腹を立ててピアノの蓋をバーンと閉めてそのまま立ち去ったりとか,よくそんなことができたなあと思います(すんません).自分としては,大まじめに演奏をしてたからだとは思うんですけどね.

 演奏が終わった後には,お店のママさんか娘さんがコーヒーを出してくれて,煙草を吸いながらコーヒーを飲んでばかりいたので,当時のお客さんからは「煙草とコーヒーだけで生きてる人」と誤解されてました.それくらいお店の中ではとんがってましたね.(今でも同じような誤解をよく受けます.B級グルメなのに,ワインとイタリア料理だけで生きてるとか..どちらにせよこれって嫌なやつですよね!)

 ただ,この5年間週一ライブをやり続けたことで色々なことを考えました.即興とはいえ,やはり何らかのモチーフや決め事が必要です.例えば,悲しいイメージの演奏をしているとしますよね.当初は弾いてるときには自分も悲しい気持ちでやってるわけなんですが,ある程度回を重ねてくると当初の悲しい気持ちは薄れてきます.というか,すごく嬉しい事があった後にでも,悲しい演奏をすることはあるわけです.だけど,聴いてる方は純粋に悲しいイメージを感じ取ってくれます.これって,何か嘘ついてないか?と悩みました.思いもないのに演奏をして!と自分を責めたこともあります.

 しかし,だんだんとその「思い」は表現するということからは余計なものなんだと考えるようになりました.作曲者あるいは演奏者の思いがどうあろうが,受け手に伝わることが全てであり,伝わったことが表現なわけですね.嬉しかろうが悲しかろうが,表現したいイメージを的確に受け手に伝えることが表現者の使命なんだと今では思ってます.

 そんな,色々なことを学んだPlay Bachですが,僕が大学卒業した後しばらくしてからお店を閉められました.今ではお店のママさん・娘さんともに連絡もとれなくなっていますが,いつか単独ソロピアノライブでもできた時には,是非聴きにきて欲しいですね.