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Oui! Friends..

As you know, "Pianist/Composer/Surgeon"

ケルン・コンサート  

 今回はジャズとの出会いシリーズ:番外編を書きますね.

 そんなこんなでよくわからないままジャズへのあこがれを持っていたわけなんですが,高校生最後の春に大きな出会いがありました.とあるオーディオ店にいたとき,偶然に耳にしたレコードでした.

 キース・ジャレットの名盤「ケルン・コンサート」です.これは何と美しい音楽なんだろう?と思いました.シンプルでいながらメロディアスであり,なおかつリズムにしっかりのっている,まさに自分の追い求めているピアノ演奏の理想像がここにありました.このアルバムが録音されたのが1975年ですが,今聴いても全く古さを感じさせないですね.

 part 1の冒頭のメロディーは特に有名です.ドレミファで書くと,ソーレードソラー・・・・ソーレードソレミファミレド,ミーラーソレミレー・・となるわけなんですが(何のこっちゃわからんですね(笑)),最初のソーレードソラーの部分は左手でDの音(レの音ですね)を置くように弾いているため,調性としてはD minor,ジャズのモード技法で言えばDドリアンスケールを感じさせるのです.日本の和音階にも通ずる雰囲気です.しかし,ミーラーソレミレーの部分では左手がいきなりAの音(ラの音ですね)へ移行します.その時点でA minorに少し解決したようになります.そういった感じで,比較的親しみやすいメロディーを右手で弾きながら,左手でコードの雰囲気をどんどん変えていく.基本的にはA minorとG major(E minorにも通ずる)の間を色々な装飾をつけながら即興で発展させていっているのですが,そういう完全な即興演奏でありながら起承転結がきちんとついた形でpart 1は終わります.もう神の祝福を感じるようなエンディングです!

  もうこれだけでもお腹一杯になるのですが,まだまだ演奏は続きます.part 1で少しのってきた感じをpart IIAでは引き継ぎます.冒頭から左手で非常に正確なビートを出しながら,右手で縦横無尽にソロが披露されます.こういう弾き方は一見簡単そうで実は非常に難しくて,ソロピアノによる即興演奏の場合どうしても左右の手の動きがどちらかに引きずられてしまいがちです.クラシックピアノでは,楽譜に書かれているとおりに右手と左手の協調運動を徹底的に頭にたたきこんでいく練習をします.右手できちんとメロディーが弾けるようになって,左手でも同様のことができたから,さあ両手で弾こうと思ってもうまくいかないのです.

 即興演奏ではそんな練習をしている暇はありませんから(!),左手にはほぼ独立した形でリズムキープをさせ,右手は別のことを考えながらソロをとることになります.これが8分音符の連続しているようなリズムであれば結構簡単にできちゃうのですが,ジャズの場合独特のウラを感じるリズム感(グルーブといいます)があって,微妙に左右の手のリズムをずらしながらメロディーをつくっていくのはかなり高度なテクニックを要します.キース・ジャレットはそれをいとも簡単に実現しているんですね.

 で,part IIBになると同じようなリズム感で始まるのですが,途中からビートをなくして色彩感豊かな響きに移行します.僕は個人的にはこのpart IIBが一番好きなんですね.まるで,川の水が源流から湧き出るように音があふれてきて,そしてそれが流れるがごとく一瞬たりとも同じ響きになっていない,ひとつひとつの音とその響きが限りなく混ざり合いながら絶えず変化していく,その言いようのないきらめきの中に神の恩寵を見た!という気持ちになります.
 技術的なことを言うと,左手のルート音(一番低い音)で全体の下支えをしつつ,右手ではトップノートの音を弾いているのですが,空いた左右の指で内声をいくつか入れることによって,あたかも手が3本あるかのように演奏をしています.これはバロック音楽で使われる対位法を応用したテクニックだと思うのですが,たぶんキースの頭の中では,左右10本の指で同時に3つ以上のメロディーラインを瞬時に進行させていくことができるんでしょうね.

  そうこうしているうちに,part IICに入ります.もう「ありがとう!」としか言えないような感じになります.ブラボーと思わず叫びたくなる至上の幸福を感じる瞬間ですね.

 と,一気呵成に書いてきたのですが,自分で言うのも何ですが結構「熱い」いや「暑苦しい」ですねえ(笑).たぶん,ほとんどわかってはもらえない世界なんだろうなと思いながら,でも言いたい!っていう気持ちはわかってもらいたいです.このアルバムは決してジャズのメインストリームを代表する作品ではないのですが,即興演奏の新たな世界を切り開いた功績は計り知れないものがあると思います.このアルバムと出会った後に,僕自身もキースと同様のスタイルを目指して(レベルは全然違いますが..)即興演奏に取り組む活動を始めることになりました.その顛末はまた後日に...