tetsuyaota.net

the article is randomly updated

Oui! Friends..

As you know, "Pianist/Composer/Surgeon"

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年  

f:id:tetsuyaota:20130525100929j:plain

 先月、村上春樹の新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」が発売された。「1Q84」に続き、店頭に並んだと同時に凄まじい売れ行き。ぼやっとしてたら、もう主だった書店には無くなってた。じゃあ、Amazonで買えばいいじゃん・・と思ってたら、ここでも品切れ。やむなく予約注文をし、届いた本の裏表紙を見てみると、第1刷が4月15日で第2刷が20日。たった5日で増刷とは恐れ入りました〜

 そこまで苦労して手に入れた割には、日々の仕事に追われて読むことも叶わず。ようやく今週末に晴れて読了。題名が長いし凝ってるんだけど、内容は比較的わかりやすいからスイスイと読み進められる。ストーリーも予想できる範囲内で、思わず心にさざ波が立つようなサプライズエピソードは少ない。

 読んでるうちに思い出したのが1992年作の「国境の南、太陽の西」。僕は結構この小説が好きで、今でも時々読み直してる。初期村上春樹作品の通奏低音として各所に書かれていた、悲しきラブストーリーの集大成である「ノルウェイの森」後、思い出の中ではなく現代に生きる上での喪失感を見事に描いた作品だ。

 これに比べると「多崎つくる〜」は一見深みに欠けるように思える。「ねじまき鳥クロニクル」や「1Q84」のような長編小説に必ず挿入されている、神秘的かつ難解なパートがところどころに埋めこまれているものの、ストーリー展開に大きな影響を与えるほどの役割を担ってはいない。失われたものを探しにいく村上春樹特有の冒険談においても、冥界を途方に暮れながら彷徨うようなものではなく、まるで自分探しの旅といった感じ。

 ただ、明らかに異なるのは最終章。あまり書くとネタバレになっちゃうからほどほどにしておくけど、これまでであれば、物語はその前の章でクールに終わってたと思う。キリストの受難とも言うべき「多崎つくる」の巡礼を、彼がどのように受け入れ赦していくか、そしてどんな決意を持って現世を生きていくのか。

 還暦を過ぎた村上春樹が長いキャリアの中で更なる変化を求めた作品であり、恐らくは次作の長編小説でその全貌が明らかになるんじゃないかな。村上春樹フリークとしては、期待しております〜