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法界坊〜平成中村座  

 昨年11月からロングラン開催されている平成中村座。4月の演目に、昨年観た渋谷・コクーン歌舞伎と同じく串田和美演出の「法界坊」があると知り、時間をやりくりして行ってきた。東京メトロ銀座線・浅草駅を降りて吾妻橋のたもとへ。東京の桜は散りかけていて、まさに桜吹雪状態。右手には東京スカイツリーが見え、歌舞伎観劇にはぴったりなシチュエーションだなあと思いながら、隅田川の畔を歩いて行く。

 江戸時代の芝居小屋を模した空間を創りたいと、2000年から中村勘三郎(当時の中村勘九郎)が仮設劇場を設営して歌舞伎を上演している平成中村座。「法界坊」はこけら落としの演目だし、病気療養から見事復帰した勘三郎の当たり役を見られるとあって否が応でも期待は高まる。

 仮設劇場内には靴を脱いで上がり、芝居小屋的な雰囲気満点。比較的こじんまりした造りで役者の肉声が響き渡る。僕の席は花道のすぐ横で、これから舞台へと駆け上がっていく役者たちの荒い息遣いも感じられる。前半は喜劇的なスタイルで話が進み、客席からは笑い声が絶えない。コクーン歌舞伎に続き出演している笹野高史が少々アドリブを加えると、それに片岡亀蔵が応えるといった、古典歌舞伎では味わえない掛け合いも楽しめる。
 しかし、だんだんと舞台はおどろおどろしいものに。法界坊という破戒僧を通じて、人間に潜む善と悪の両方を巧妙に表現していく勘三郎の演技は出色のもの。そして、幕間を挟んでのフィナーレ。ネタバレしないギリギリで書くと、ああ、この時期、この場所でこの演目をやる意味があるんだなと合点がいくものだった。勧善懲悪ものではない、ダークヒーローに拍手喝采を送ってしまう奥深さ。人間というものは、時代を経ても変わらないものだなと考えさせられると共に、それを含めてエンターテインメントとしても楽しませてくれる素晴らしい演目だった。